
近年、「貯蓄から投資へ」の流れもあり、投資に興味を持つ方が増えています。将来のために資産を増やしたい、インフレに備えたい、という思いから、一歩踏み出そうと考えている方も多いのではないでしょうか。NISA制度の拡充なども後押しとなり、これから投資を始めたいという初心者の方にとって、まさに絶好の機会と言えるかもしれません。
しかし、投資は貯蓄とは異なり、元本が保証されているものではありません。リターンが期待できる一方で、当然リスクも存在します。特に初めて投資を行う方が、このリスクを十分に理解せずに始めてしまうと、思わぬ失敗をしてしまう可能性があります。
投資で失敗しないために最も重要なことの一つが、「資金管理」、つまり「どのお金で投資をするか」をしっかり見極めることです。どんなに素晴らしい投資先を選んだとしても、投資に回してはいけないお金を使ってしまっては、後々大変なことになりかねません。
この記事では、投資初心者のあなたが、安心して投資の第一歩を踏み出すために、「投資に回してはいけないお金」について詳しく解説します。適切な資金管理の知識を身につけ、賢く安全に投資を始めましょう。
■■ なぜ「投資に回してはいけないお金」があるのか?
繰り返しになりますが、投資には元本割れのリスクがあります。例えば、あなたが100万円を投資したとして、市場の変動によってはそれが80万円や50万円になってしまう可能性もゼロではありません。
もし、あなたが近いうちに使う予定のあるお金や、生活に必要なお金を投資に回してしまったらどうなるでしょうか?
・急にお金が必要になった時:
投資している金融資産の価値が下がっているタイミングだったとしても、現金化せざるを得なくなり、損失を確定させてしまうことになります。
・精神的な負担:
投資しているお金が生活に直結していると、価格の変動が気になって夜も眠れなくなったり、冷静な判断ができなくなったりします。本来は長期的な視点で投資すべきなのに、目先の価格変動に一喜一憂して、慌てて売買を繰り返し、かえって損失を膨らませてしまう、といった事態も起こり得ます。
このように、投資には不確実性が伴うため、その影響を受けても生活に支障が出ないような「余裕資金」で行う必要があるのです。
■■ 具体的に投資に回してはいけないお金とは?
では、具体的にどのようなお金を投資に回してはいけないのでしょうか?主に以下の5種類が挙げられます。
◆ 1. 生活防衛資金
これが最も重要と言っても過言ではありません。生活防衛資金とは、病気やケガによる収入減、リストラ、予期せぬ大きな出費(家の修理、家族の医療費など)といった、万が一の事態に備えて手元に置いておくべき資金のことです。
一般的に、生活費の3ヶ月〜1年分が目安とされています。会社員など比較的収入が安定している方であれば3ヶ月〜半年分、フリーランスや自営業の方など収入が不安定になりがちな方は半年〜1年分を目安にすると良いでしょう。
この生活防衛資金を投資に回してしまうと、いざという時に現金が足りなくなり、せっかく積み立てた資産を損失を抱えたまま売却したり、借金をしたりといった最悪のシナリオを招きかねません。
生活防衛資金は、普通預金やネット銀行の預金など、いつでも引き出せる流動性の高い形で確保しておくべきお金です。投資に回すのではなく、安全な場所にしっかりと確保しておきましょう。
◆ 2. 近いうちに使用予定のあるお金
数年以内に使うことが決まっている、または使う可能性が高いお金も投資には不向きです。
例えば、
・住宅購入の頭金
・車の購入費用
・子どもの教育資金(近い将来必要になるもの)
・結婚資金
・海外旅行など、明確な目的のあるまとまった支出
などです。
これらの資金は、使用する時期がある程度決まっているため、それまでに資産価値が大きく下落してしまうリスクを避ける必要があります。投資は一般的に、短期間で大きなリターンを期待するものではなく、長期的に資産を育てるものです。使用時期が決まっている資金を投資に回すと、その時期までに目標金額に達しない、あるいは元本割れしているといった事態になりかねません。
近いうちに使用予定のあるお金は、定期預金や個人向け国債など、元本割れのリスクが極めて低い、あるいはほとんどない安全性の高い方法で準備しておくのが賢明です。
◆ 3. 借金をして作ったお金
これは論外です。借金をしてまで投資をすることは絶対にやめましょう。
投資のリターンは不確実ですが、借金の利息は確実にかかるコストです。投資で得られるリターンが借金の利息を上回る保証はどこにもありません。むしろ、投資がうまくいかなかった場合、借金の返済と投資の損失という二重苦に苛まれることになります。
また、借金をして投資を行うことは「レバレッジをかける」ということになり、利益が出た時は大きくなりますが、損失が出た時の影響も甚大になります。最悪の場合、自己破産に至る可能性さえあります。
まずは、現在ある借金の返済を最優先に考えましょう。借金を完済してから、改めて余裕資金で投資を検討するのが正しい順序です。
◆ 4. 人から借りたお金
これも借金と同様、絶対に投資に回してはいけません。友人や家族から借りたお金は、返済のプレッシャーがあるだけでなく、もし投資で損失を出した場合、人間関係に決定的な亀裂を生じさせる可能性があります。お金の問題は、時として大切な人間関係を壊してしまいます。絶対に行わないでください。
◆ 5. 当面の生活費をすべて使った残りギリギリのお金
生活防衛資金とは別に、毎月の収入から生活費を差し引いて、文字通り「残りわずか」というお金も投資に回すべきではありません。
このようなお金で投資をすると、日々の値動きが気になってしまい、精神的に追い詰められます。少しでも価格が下がると不安になり、本来であれば保有し続けるべき局面で狼狽売りをしてしまうなど、冷静な判断力を失いがちです。
投資は、精神的な余裕があってこそ、長期的な視点で取り組むことができます。「このお金がなくなっても、当面の生活には困らない」と思える範囲の、本当の意味での「余裕資金」で始めることが大切です。最初は少額からでも構いません。
■■ 「投資に回して良いお金」とは?
では、どのようなお金であれば投資に回しても良いのでしょうか?それは、上記で挙げた「投資に回してはいけないお金」に該当しない、「当面使う予定のない余裕資金」です。
具体的には、
・生活防衛資金を十分に確保した上で、さらに手元にある資金
・数年以内に使う予定のない、将来のための資金
・「もしこのお金がなくなってしまっても、日々の生活や将来設計に大きな影響はない」と言えるお金
です。
ただし、「余裕資金だから何に使ってもいい」というわけではありません。投資はリスクを伴いますので、投資対象や投資方法についてはしっかりと学び、理解した上で行うことが重要です。
■■ 投資初心者が適切な資金管理を行うためのステップ
投資を始める前に、以下のステップで自身の資金状況を確認し、適切な資金管理を行いましょう。
- 現在の資産状況を把握する:
収入、毎月の支出、現在の預貯金、加入している保険などをすべて洗い出しましょう。家計簿アプリなどを活用するのも有効です。 - 必要な生活防衛資金を計算する:
月々の生活費を計算し、その3ヶ月〜1年分の金額を確認します。現在の預貯金のうち、いくらを生活防衛資金として確保する必要があるかを明確にしましょう。 - 近いうちに使う予定のあるお金をリストアップする:
数年以内に必要となる可能性のある大きな支出(車の買い替え、リフォーム費用など)を想定し、そのために必要なお金を把握します。 - 「投資に回せる可能性のある余裕資金」を把握する:
総資産から、生活防衛資金と近いうちに使用予定のあるお金を差し引いた金額が、理論上投資に回せる可能性のある資金です。ただし、この金額すべてを一度に投資する必要はありません。 - まずは少額から投資を始めてみる:
投資の経験がないうちは、把握した余裕資金の全てを一度に投資するのではなく、無理のない範囲の少額から始めることを強くお勧めします。例えば、毎月数千円や1万円といった金額から始めて、投資の仕組みや値動きに慣れていくのが良いでしょう。
■■ まとめ
投資は、長期的に資産を形成するための有効な手段ですが、そのためには正しい知識と適切な資金管理が不可欠です。特に投資初心者のうちは、焦らず慎重に進めることが何よりも重要です。
「投資に回してはいけないお金」である、生活防衛資金、近いうちに使用予定のあるお金、借金や人から借りたお金、そして当面の生活費をすべて使った残りギリギリのお金には、決して手を出さないようにしてください。これらの資金に手をつけてしまうと、投資の失敗がそのまま生活の破綻に直結しかねません。
まずは、これらの重要なお金と、当面使う予定のない「余裕資金」をしっかりと区別することから始めましょう。そして、投資は必ずこの「余裕資金」の範囲内で行ってください。
適切な資金管理は、投資で成功するための最初の、そして最も重要なステップです。焦らず、しかし着実に、あなたの資産形成の旅を始めていきましょう。学ぶことを忘れず、賢く、そして安全に投資に取り組んでください。
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