
多くの人が漠然とした不安を抱える老後の生活。その不安を具体的な貯蓄目標として設定し、「老後がそれほど心配でない人」がどのくらいの貯蓄をしているのか、そして、安心して生活できるための貯蓄額のボーダーラインはどこにあるのかを詳しく解説します。
■■ 老後の不安を解消する「貯蓄額」の現実
老後の生活に対する不安は、多くの人にとって共通の課題です。公的年金制度の先行き不透明感、医療費の増加、物価上昇など、様々な要因がその不安を煽ります。しかし、「老後がそれほど心配でない人」は、一体どのくらいの貯蓄を持っているのでしょうか?そして、私たちもその安心感を得るためには、どの程度の貯蓄を目指すべきなのでしょうか?
◆ 「老後がそれほど心配でない人」の貯蓄実態
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)」によると、世帯主の年齢階層別に見た金融資産保有額は以下のようになっています。
・60歳代: 平均1,939万円、中央値800万円
・70歳代: 平均1,770万円、中央値600万円
このデータを見ると、平均値と中央値に大きな乖離があることがわかります。これは、一部の富裕層が平均値を大きく押し上げているためです。より実態に近いのは中央値と言えるでしょう。つまり、60歳代で約800万円、70歳代で約600万円が、一般的な二人以上世帯の貯蓄額のボリュームゾーンということになります。
この中央値の貯蓄額で「それほど心配でない」と感じられるかというと、多くの場合、そうではないかもしれません。なぜなら、これらの貯蓄額は、あくまで「現時点での貯蓄額」であり、老後の生活費として十分であるかは個々のライフスタイルや年金受給額に大きく左右されるからです。
では、一体どのくらいの貯蓄があれば「老後の安心度」が増すのでしょうか?
■■ 老後の安心度が増す貯蓄額のボーダーラインとは?
老後の安心度を高めるための貯蓄額は、画一的に「〇〇万円」と断言できるものではありません。個々のライフスタイル、年金受給額、住居費、医療費、そして退職後の生活で何をしたいか(趣味、旅行、住み替えなど)によって大きく変動します。しかし、一般的な目安として、いくつかの考え方からボーダーラインを導き出すことができます。
◆ 1. 必要生活費から逆算する考え方
総務省の「家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均」によると、高齢夫婦無職世帯の1ヶ月の平均的な消費支出は約26.8万円です。このうち、食料や住居費などの「消費支出」は約23.8万円、非消費支出(社会保険料、税金など)が約3万円となっています。
仮に公的年金収入が毎月20万円だとすると、毎月約6.8万円が不足します。この不足分を貯蓄で賄うと仮定した場合、何年間老後生活を送るかによって必要な貯蓄額は変わってきます。
・90歳まで生きると仮定した場合(65歳でリタイア、25年間の生活)
6.8万円 × 12ヶ月 × 25年間 = 2,040万円
この「2,040万円」という数字は、「老後2,000万円問題」として一時期話題になりました。これはあくまで「年金だけでは不足する生活費」を補うための最低限の貯蓄額であり、ゆとりのある生活を送るためにはさらに上乗せが必要です。
◆ 2. ゆとりのある生活費を考慮する考え方
生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」によると、夫婦2人で老後の生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は平均月額22.1万円ですが、これに加えてゆとりのある生活費として平均月額14.0万円が必要だと回答しています。つまり、ゆとりのある生活を送るためには、合計で月額約36.1万円が必要だと考えている人が多いということです。
仮に年金収入が20万円だとすると、毎月約16.1万円が不足します。
・90歳まで生きると仮定した場合(65歳でリタイア、25年間の生活)
16.1万円 × 12ヶ月 × 25年間 = 4,830万円
この試算から見ると、ゆとりのある老後を送るためには4,000万円〜5,000万円程度の貯蓄がボーダーラインとして見えてきます。もちろん、この金額はあくまで目安であり、個々の年金受給額や生活費によって大きく変動します。
◆ 3. リスクに備えるための貯蓄額
老後の生活において、予期せぬ出費はつきものです。特に、医療費や介護費は大きな負担となる可能性があります。
・医療費:
厚生労働省の「医療費の動向」によると、65歳以上の医療費は平均的に年間約70万円程度です。高額療養費制度があるとはいえ、自己負担分や差額ベッド代、先進医療費用など、公的医療保険でカバーされない部分も考慮する必要があります。
・介護費用:
生命保険文化センターの調査によると、介護期間の平均は約5年1ヶ月で、介護にかかった費用の合計は平均約494万円とされています。
これらのリスクに備えるため、生活費とは別に500万円〜1,000万円程度の予備資金を確保しておくことが、安心度を高める上で重要になります。
■■ 安心度を高めるための貯蓄目標設定のポイント
上記の試算を踏まえると、老後の安心度を高めるための貯蓄額のボーダーラインは、3,000万円〜5,000万円以上が一つの目安となると考えられます。これは、最低限の生活費の不足分を補いつつ、ゆとりのある生活や予期せぬ出費にも対応できる水準です。
しかし、この金額はあくまで目安であり、個々の状況に合わせて目標額を設定することが重要です。
◆ 1. ライフプランを具体的に描く
老後の生活で何をしたいのか、どこに住むのか、どのような趣味を楽しみたいのかなど、具体的なライフプランを描くことで、必要な生活費をより正確に把握できます。
◆ 2. 年金受給額を確認する
「ねんきん定期便」などで将来の年金受給見込額を確認し、不足する金額を明確に把握することが第一歩です。
◆ 3. 現状の貯蓄額と今後の貯蓄計画を立てる
現在の貯蓄額を確認し、目標額達成のために毎月いくら貯蓄していく必要があるのか、具体的な計画を立てましょう。NISAやiDeCoなどの非課税制度を積極的に活用することで、効率的な資産形成が可能です。
◆ 4. 医療保険・介護保険の加入状況を確認する
民間の医療保険や介護保険に加入することで、万が一の際の経済的負担を軽減できます。加入している保険の内容を確認し、不足があれば見直しを検討しましょう。
◆ 5. 早めに始めることの重要性
老後の貯蓄は、若いうちから始めるほど、複利効果の恩恵を最大限に受けることができます。少額からでも構わないので、できるだけ早く貯蓄をスタートさせることが、老後の安心につながります。
■■ まとめ:老後の安心は「具体的な目標」と「計画的な実行」から生まれる
「老後がそれほど心配でない人」は、漠然とした不安を抱えるのではなく、具体的な目標設定と計画的な貯蓄を実行しています。彼らは、自分の将来のライフスタイルに必要な費用を計算し、それに見合った資産形成を行っているのです。
老後の安心度を高めるための貯蓄額のボーダーラインは、個人の状況によって異なりますが、最低でも2,000万円台後半から3,000万円以上、ゆとりのある生活やリスクに備えるのであれば4,000万円〜5,000万円以上を目指すのが現実的な目標と言えるでしょう。
この金額を聞いて、「そんなに貯められるだろうか」と不安に感じるかもしれません。しかし、重要なのは「一気にすべて貯める」のではなく、「毎月少しずつでも良いから、目標に向かって継続的に貯め続けること」です。
今日からあなたの老後資金計画を見直し、具体的な目標設定と実行に移すことで、漠然とした不安を解消し、安心してセカンドライフを楽しめる未来を手に入れることができるでしょう。
あなたの老後の安心のための一歩を、今まさに踏み出す時です。
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