親の残した「お荷物」相続!負動産を巡る家族間のトラブルを回避する処方箋

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「負動産」という言葉をご存知でしょうか?これは、資産としての価値がほとんどない、あるいは管理や維持に費用がかかるために、むしろ持ち主にとって負担となる不動産を指します。一般的にイメージされる「不動産=資産」という図式とは真逆の存在です。相続において、このような負動産が問題となるケースが近年増加しており、その手続きは想像以上に複雑で、多岐にわたる課題を抱えています。

■■ 負動産が生まれる背景

なぜ負動産は生まれるのでしょうか?主な要因としては、以下のような社会の変化が挙げられます。

・人口減少と高齢化:
地方から都市部への人口流出、核家族化の進行により、実家が空き家となり、放置されるケースが増えています。高齢の親が住んでいた家を相続しても、子どもたちは都市部に住んでいて戻る予定がない、といった状況が典型です。

・経済状況の変化:
地方経済の衰退により、土地の需要が減少。特に駅から遠い、利便性の低い場所にある不動産は、売却が極めて困難になります。

・建築基準法の改正と耐震化の義務付け:
旧耐震基準で建てられた建物は、現在の基準に合致しない場合が多く、大規模な修繕や建て替えが必要になります。これにかかる費用は高額で、所有者の負担となります。

・相続人の多様化:
相続人の数が多く、意見がまとまらないケースや、相続人の中に連絡が取れない人がいる場合など、相続手続きが長期化しがちです。

これらの要因が絡み合い、結果として「いらない不動産」「負債となる不動産」が生まれてしまうのです。

■■ 負動産の相続手続きにおける具体的な課題

負動産の相続手続きは、通常の不動産相続に比べて特有の困難を伴います。主な課題を以下に挙げます。

◆ 1. そもそも価値がない、売れない

最も根本的な問題は、資産価値がほとんどないため、売却が極めて困難であることです。市場価値がゼロに等しい、あるいは売却しようにも買い手がつかない、という状況は珍しくありません。不動産業者に相談しても「買い手がつかない」と断られることも多々あります。

・査定額の低さ:
たとえ査定が付いたとしても、固定資産税評価額を下回るケースや、数百万円程度の査定しか付かないこともあります。

・維持管理費の負担:
売却できない間も、所有しているだけで固定資産税や都市計画税がかかります。また、空き家であれば管理の手間や費用(庭の手入れ、清掃、修繕など)も発生します。

・買主の不在:
特に地方の過疎地域や、交通の便が悪い場所にある不動産は、需要が皆無に等しく、売却のめどが立たないことがほとんどです。

◆ 2. 相続放棄の難しさ

「負動産なら相続放棄すればいい」と考えるかもしれませんが、相続放棄はそう簡単ではありません。

・熟慮期間の短さ:
相続放棄は、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。この期間内に、相続財産(負動産を含む)の調査を完了し、放棄するかどうかを判断しなければなりません。負動産の状況調査や価値判断には時間がかかるため、この3ヶ月という期間は非常に短く感じられるでしょう。

・他の財産との兼ね合い:
相続放棄は、被相続人のすべての財産(預貯金、有価証券、自動車なども含む)に対して適用されます。特定の負動産だけを放棄することはできません。もし、負動産以外に価値のある財産(現金など)がある場合、それらも手放さなければならないため、安易な選択はできません。

・次順位相続人への影響:
相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったものとみなされます。これにより、次に相続人となる人(例えば、親が相続放棄すれば子、子が放棄すれば孫など)に相続権が移転します。このため、自身の相続放棄が、親族に新たな負担をかけることになる可能性も考慮する必要があります。

◆ 3. 相続人同士の意見対立

負動産の場合、相続人全員が「手放したい」と考えているとは限りません。

・思い出の家:
被相続人との思い出が詰まった家であれば、売却することに抵抗を感じる相続人もいるかもしれません。

・管理責任の押し付け合い:
誰もが負動産を所有したくないため、管理責任や費用の負担を巡って相続人同士で意見が対立し、話がこじれることがあります。

・連絡の取れない相続人:
遠方に住んでいる、あるいは長年連絡を取っていない相続人がいる場合、遺産分割協議を進めることが非常に困難になります。全員の同意がなければ、不動産の処分はできません。

◆ 4. 登記義務化による負担増

2024年4月1日から、相続による不動産の所有権移転登記が義務化されました。これにより、相続人は不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければなりません。正当な理由なくこの義務を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。

この義務化は、所有者不明土地問題の解消を目指すものですが、負動産の相続人にとっては新たな負担となります。登記自体に費用(登録免許税や司法書士への報酬)がかかる上、売却の見込みがない不動産のために費用をかけることに抵抗を感じる人も少なくないでしょう。

◆ 5. 特定の法律・制度の活用難易度

負動産の解決策として、様々な法制度が検討されますが、それぞれにハードルがあります。

・相続土地国庫帰属制度:
2023年4月27日から施行された新しい制度で、相続した不要な土地を国に引き取ってもらうことができるようになりました。しかし、この制度を利用するには、以下の厳しい要件を満たす必要があります。

 - 建物がないこと(更地であること)
 - 担保権等が設定されていないこと
 - 土壌汚染がないこと
 - 危険な崖地がないこと
 - 境界が明確であること
 - その他、通常の管理や処分にあたって過大な費用・労力がかからないこと

これらの要件を満たす土地は限られており、また、負担金(10年分の土地管理費相当額)の納付も必要となるため、利用できる負動産はごく一部に限られます。

・財産管理制度:
相続人が不在の場合や、相続人全員が相続放棄をした場合などに、家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、財産を管理・清算してもらう制度です。しかし、この制度を利用するためには、予納金(数十万円~数百万円)が必要となることが多く、経済的負担が大きいという問題があります。

◆ 6. 近隣トラブルや行政からの指導

空き家となった負動産は、地域住民にとって様々な問題を引き起こす可能性があります。

・老朽化による危険:
倒壊の危険、屋根瓦の飛散、外壁の剥落など。

・景観の悪化:
雑草が生い茂り、ごみが散乱するなど。

・衛生問題:
害虫や害獣の発生、不法投棄など。

・治安の悪化:
不審者の侵入、放火など。

・近隣からの苦情:
これらの問題により、近隣住民から苦情が寄せられ、自治体から改善指導が入ることもあります。指導に従わない場合、行政代執行(自治体が費用を負担して解体などを行い、後から所有者に請求する)が行われる可能性もあり、さらに金銭的な負担が増大する恐れがあります。


■■ 負動産の相続手続きにおける解決策

ここまで負動産の相続における課題を挙げてきましたが、これらの困難に対してどのように対処すれば良いのでしょうか。具体的な解決策をいくつかご紹介します。

◆ 1. 相続人全員での早期かつ徹底した話し合い

何よりも重要なのは、相続人全員が早い段階で集まり、負動産の現状と今後の方向性について徹底的に話し合うことです。

・現状の把握:
負動産の所在地、状態(老朽化の度合い、修繕の必要性)、固定資産税額、周辺環境(交通の便、近隣住民の状況)などを具体的に共有します。

・全員の意向確認:
各相続人が、その負動産をどうしたいのか(売却したい、維持したい、処分したいなど)を明確にします。

・費用負担の確認:
今後発生しうる費用(固定資産税、管理費、修繕費、解体費用、登記費用など)について、誰がどの程度負担するのかを具体的に検討します。

・専門家への相談:
必要であれば、早い段階で弁護士、司法書士、税理士、不動産業者などの専門家を交えて話し合いを進めることを検討します。

◆ 2. 専門家への相談と連携

負動産に関する問題は多岐にわたるため、個人の知識や経験だけで解決することは困難です。信頼できる専門家と連携することが、問題解決への近道です。

・司法書士:
相続登記、相続放棄の手続き、遺産分割協議書の作成など、法的な手続き全般について相談できます。

・弁護士:
相続人同士の意見対立、遺産分割調停・審判、相続放棄の判断など、法的紛争解決や複雑な法律判断を要するケースで頼りになります。

・税理士:
相続税の申告、負動産に関する税務上のアドバイス(固定資産税、譲渡所得税など)について相談できます。

・不動産業者:
負動産の査定、売却可能性の検討、売却に向けたアドバイス、媒介契約など。負動産に特化した不動産業者や、不動産買取業者に相談することも有効です。

・空き家バンク,NPO法人:
自治体が運営する空き家バンクや、空き家問題に取り組むNPO法人などに相談することで、思わぬ解決策が見つかる可能性もあります。

◆ 3. 売却可能性の徹底的な検討

たとえ価値が低いとされても、あらゆる角度から売却の可能性を探るべきです。

・専門の買取業者への相談:
一般的な仲介業者では買い手が見つからなくても、負動産や訳あり物件専門の買取業者であれば、独自のネットワークやノウハウで買い取ってくれる場合があります。

・隣接地の所有者への打診:
負動産が隣の土地の所有者にとって、敷地拡張や駐車場などに利用できる価値がある場合、直接買い取りを打診してみるのも一つの手です。

・価格の柔軟な設定:
市場価格にこだわりすぎず、思い切って安価に設定することで、買い手が見つかる可能性もあります。

・「現状渡し」での売却:
リフォームや解体費用をかけずに、現状のまま引き渡すことで、売却のハードルを下げることもできます。

◆ 4. 相続土地国庫帰属制度の利用検討

前述の通り要件は厳しいですが、もし負動産が相続土地国庫帰属制度の要件を満たす可能性があるならば、積極的に検討すべきです。法務局に相談し、制度の利用可能性について確認しましょう。ただし、負担金が発生すること、引き取りまでには時間を要することを理解しておく必要があります。

◆ 5. 自治体の空き家対策事業の活用

多くの自治体では、空き家対策として様々な補助金制度や相談窓口を設けています。

・解体費用補助金:
老朽化した空き家の解体費用の一部を補助する制度。

・リフォーム費用補助金:
移住者が空き家をリフォームする際の費用を補助する制度。

・空き家バンクへの登録:
自治体が運営する空き家情報サイトに登録し、購入希望者や利用希望者を募る。

・専門家派遣制度:
空き家に関する相談に、無料で専門家を派遣してくれる制度。

これらの制度を活用することで、費用負担を軽減したり、売却・利活用の道筋が見つかる可能性があります。

◆ 6. 相続放棄の慎重な判断

相続放棄は、負動産の負担から解放される有効な手段ではありますが、慎重な判断が必要です。

・他の相続財産の有無:
放棄してしまうと、預貯金など他の相続財産も手放すことになります。

・次順位相続人への影響:
自身の放棄が、次の相続人に迷惑をかけないか。事前にしっかりと話し合い、理解を得ておくことが大切です。

・3ヶ月の熟慮期間:
短い期間内で専門家と相談しながら、冷静に判断することが求められます。


■■ まとめ

「負動産」の相続は、単に資産を継ぐというよりも、「負債」を引き継ぐことに近い感覚かもしれません。その手続きは、資産価値の低さからくる売却の困難さ、法的な手続きの複雑さ、相続人同士の意見対立、そして税金や維持管理の費用負担など、多岐にわたる課題を抱えています。

しかし、これらの課題に対しては、早期の状況把握、相続人全員での徹底した話し合い、そして司法書士、弁護士、不動産業者などの専門家との連携によって、解決の道筋を見出すことが可能です。特に、2024年4月1日から施行された相続登記の義務化や、相続土地国庫帰属制度の導入など、法制度の変化も踏まえ、最新の情報に基づいて対応することが重要となります。

負動産の問題を放置することは、さらなる負担やトラブルを招く可能性があります。もし、今負動産の相続で困っているのであれば、一人で抱え込まず、まずは信頼できる専門家や自治体の窓口に相談し、具体的な解決策を探ることから始めてみましょう。未来の世代に負の遺産を残さないためにも、積極的な行動が求められています。

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