
【日経平均は最高値更新でも、自分の株が上がらない「5つの理由」と対策】
日経平均株価が連日史上最高値を更新し、ニュースは活況に沸いています。
しかし、その華やかな報道とは裏腹に、多くの個人投資家が「なぜ自分の保有株だけが上がらないのか」「市場の盛り上がりに全くついていけていない」という焦りや疎外感(=蚊帳の外感)を感じているのではないでしょうか。
ご安心ください。その感覚は、あなただけのものではありません。
そして、あなたの銘柄選定が根本的に間違っていると結論付けるのは早計です。
日経平均株価という「指数」が上昇することと、市場全体の「すべて」の株が上昇することは、全くの別問題です。
むしろ、近年の相場において、日経平均の上昇と個人の体感温度に乖離(かいり)が生じるのは、構造的な理由があるのです。
本稿では、株式市場の専門家として、なぜこのような「ギャップ」が生まれるのか、その理由を5つの側面に分けて徹底的に解剖し、今後の投資戦略を見直すための具体的な視点を提供します。
■■ 理由1:日経平均株価の「特殊性」と「偏り」
最大の理由は、私たちが毎日目にしている「日経平均株価」という指数の特性そのものにあります。
● 「平均」の罠:日経平均は「株価平均型」
日経平均株価は、東証プライム市場に上場する代表的な「225銘柄」の株価を基に算出されます。
重要なのはその計算方法で、これは「株価平均型」と呼ばれます。
簡単に言えば、「株価が高い(=値がさ)銘柄」の値動きが、指数全体に極めて大きな影響を与えてしまう仕組みです。
例えば、株価10,000円のA社の株価が10%(1,000円)上がることと、株価100円のB社の株価が10%(10円)上がることでは、指数に与える影響がA社の方が100倍も大きくなります。
● 比較:TOPIX(東証株価指数)との違い
一方で、もう一つの代表的な指数である「TOPIX(トピックス)」は、「時価総額加重平均型」です。
これは「会社の規模(時価総額=株価×発行済株式数)」が大きい銘柄の影響力が大きい指数です。
TOPIXは東証プライム市場の全銘柄(約1,600銘柄)を対象としており、日経平均(225銘柄)よりもはるかに市場全体の動向を反映しやすいとされています。
もし日経平均だけが突出して上がり、TOPIXの上昇が鈍い場合、それは「市場全体が上がっている」のではなく、「日経平均を構成する、特定の値がさ株だけが“異常に”上昇している」可能性が極めて高いのです。
● 特定の銘柄による「ゲタ」
現在の日経平均は、構成比率上位の数銘柄(例えば、ファーストリテイリングや東京エレクトロン、ソフトバンクグループなど)の値動きに、指数全体が大きく左右される構造になっています。
極端な話、たった10銘柄程度が急騰し、残りの215銘柄が横ばいか下落していても、日経平均株価は「最高値更新」と報道されうるのです。
あなたの保有株が、これら特定の値がさ株でなければ、日経平均の上昇と無関係であっても何ら不思議はありません。
■■ 理由2:市場の「二極化」-大型株と中小型株の格差
現在の日本株市場を動かす最大のプレイヤーは、海外投資家です。
彼らが日本株を買う時、その資金はどこに向かうでしょうか?
多くの場合、流動性(売買のしやすさ)が高く、情報も得やすい、日本を代表する「大型株」に集中します。そして、日経平均採用銘柄は、まさにその「大型株」の代表格です。
● 資金の集中と中小型株の停滞
海外投資家が先物(日経225先物など)を使って日本株全体を買うと、現物市場では日経平均の構成比率が高い銘柄(理由1で述べた値がさ株など)が機械的に買われます。
その結果、大型株には巨額の資金が流入して株価が押し上げられますが、その資金は市場全体には行き渡りません。
むしろ、個人投資家が多く保有しがちな「中小型株」や「新興市場(グロース市場)の銘柄」からは、「儲かっている大型株に乗り換えよう」という動きで資金が流出し、かえって株価が下落する「二極化」現象が発生します。
あなたのポートフォリオが中小型株中心である場合、日経平均が上がるほど、その「逆風」を受けている可能性すらあるのです。
■■ 理由3:セクターローテーションの「波」に乗れていない
株式市場の資金は、一箇所に留まりません。経済状況や金利、為替、技術革新などの「テーマ」に応じて、常に有利な業種(セクター)へと移動しています。これを「セクターローテーション」と呼びます。
● 現在の「主役」は誰か?
例えば、現在(あるいは最高値更新時)の相場を牽引しているテーマが以下のようなものだった場合を考えてみましょう。
- 半導体・AI関連: 世界的な技術革新の波。
- 円安メリット(輸出関連): 自動車や機械など。
- PBR1倍割れ改善期待(バリュー株): 銀行、商社、鉄鋼など。
もし、これらのセクターが市場の「主役」として脚光を浴びている場合、それ以外のセクター、例えば「内需(小売、食品)」「ディフェンシブ(医薬品、通信)」「金利上昇に弱いグロース株」などは、資金が流入しにくく、停滞あるいは下落しやすくなります。
日経平均が上がっているのは、上記のような「主役セクター」に日経平均構成銘柄(例:半導体関連の東京エレクトロン、円安メリットのトヨタ自動車、PBR改善の三菱UFJ銀行など)が多く含まれているからかもしれません。
あなたの保有株が、現在の市場の「テーマ」から外れたセクターに属している場合、相場全体の活況から取り残されてしまうのは自然な現象です。
■■ 理由4:個別銘柄固有の「悪材料」
市場全体やセクターの問題ではなく、単純に「その銘柄固有の問題」で株価が上がらないケースもあります。どれほど市場全体が好調でも、個別の問題を抱えた企業の株価は上がりません。
・業績の悪化:
- 決算発表で、売上や利益が市場の期待(コンセンサス予想)に届かなかった。
- 業績の「下方修正」を発表した。
- 競合他社にシェアを奪われるなど、将来性への懸念が出ている。
・需給(じゅきゅう)の悪化:
- 「信用買い残」が溜まりすぎている。
(将来、株価が上がった際に利益確定売り、下がった際に損切り売りが出るため、将来の「売り圧力」として意識されます)
- 特定の大株主や投資ファンドが、保有株を市場で売却している。
・バリュエーション(割高感):
- すでに株価が上がりすぎており、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標面で「割高」と判断され、新規の買いが入らず、利益確定売りに押されている。
■■ 理由5:投資戦略と「時間軸」のミスマッチ
最後に、あなた自身の投資スタイルと、現在の相場の「ノリ」が合っていない可能性です。
例えば、あなたの投資戦略が「高配当株を長期で保有し、配当金(インカムゲイン)をコツコツ積み上げる」というものだとします。
この戦略で選ばれる銘柄(高配当バリュー株)は、そもそも株価の値動きが比較的マイルドなものが多いです。
一方で、現在の日経平均を押し上げているのが、短期的な値幅取り(キャピタルゲイン)を狙った投機的な資金や、AIブームに乗ったグロース株(成長株)である場合、あなたの保有株の反応が鈍いのは、むしろ戦略通りとも言えます。
最も危険なのは、日経平均の上昇に焦り、本来の自分の投資戦略(長期・配当狙い)を無視して、過熱している「話題株」に高値で飛びついてしまうことです。
それは「高値掴み」となり、その後の調整局面で大きな損失を被る典型的なパターンです。
■■ 今後の投資戦略見直しのための「3つの視点」
では、この「蚊帳の外」感を払拭し、今後の投資戦略にどう活かせばよいでしょうか。
● 1. 徹底的な「ポートフォリオの健康診断」
まずは、あなたの保有銘柄(ポートフォリオ)が、現在の市場とどういう関係にあるのかを客観的に把握しましょう。
・セクター分散: 保有銘柄は特定の業種に偏っていませんか?
・規模の分散: 大型株、中小型株の比率はどうなっていますか?
・理由の分析: 保有株が上がらない理由を、本稿の「理由1~4」に当てはめて冷静に分析してください。「業績が悪い」なら損切りを検討すべきかもしれませんし、「セクターローテーションから外れているだけ」なら、次の波が来るまで待つ(ホールド)という判断もあり得ます。
● 2. 「指数(インデックス)」への投資を組み込む
「個別銘柄を選ぶ自信がない」「日経平均の上昇の恩恵だけでも受けたい」と考えるのであれば、日経平均株価やTOPIXそのものに連動する金融商品を活用するのも賢明な戦略です。
・ETF(上場投資信託):
- 日経平均連動型ETF(例:1321、1570)
- TOPIX連動型ETF(例:1306、1348)
・投資信託:
- 各種インデックスファンド
これらをポートフォリオの「コア(中核)」として保有し、その周りを「サテライト(衛星)」として個別銘柄で補う「コア・サテライト戦略」は、リスクを抑えつつ市場全体の成長を取り込む有効な手段です。
● 3. 「自分の土俵」を再確認する
日経平均という「他人の土俵」での短期的な勝ち負けに一喜一憂する必要はありません。
重要なのは、あなた自身が定めた投資目的(例:老後資金、配当生活)と時間軸(例:10年後、20年後)に沿って、資産が着実に増えているかどうかです。
日経平均が上がっているからといって、高値で過熱する銘柄を追いかける必要はありません。
むしろ、市場全体が過熱している時こそ、割安に放置されている優良な中小型株や、次のセクターローテーションの主役になりそうな銘柄を「仕込む」チャンスと捉えることもできます。
■■ 結論
日経平均が最高値を更新しても、あなたの株が上がらないのは、市場の構造的な特性(指数の偏り、二極化、セクター循環)によるものである可能性が非常に高いです。
決して悲観的になったり、パニックになったりする必要はありません。
重要なのは、その「理由」を冷静に分析し、ご自身の投資戦略と時間軸に照らし合わせて、客観的な判断を下すことです。
この機会にぜひ、ご自身のポートフォリオを見直し、より強固な資産形成戦略を再構築するのをおすすめします。










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