
新車購入は大きな買い物です。ディーラー営業マンは、利益を確保しつつ販売目標(ノルマ)を達成するために、様々な戦略を持っています。
消費者はその戦略の裏側を知り、準備をすることで、交渉を有利に進めることができます。
■■ 1. 新車を安く買うための交渉術
新車の購入価格を抑えるためには、車両本体価格の値引きだけでなく、オプションサービスや下取り価格を含めた「総支払い額」で考えることが重要です。
● 1.1. 徹底した事前準備で主導権を握る
・相場の把握と目標額の設定
- 購入したい車種の「車両本体の値引き相場」と「オプションの値引き相場」をインターネットや雑誌で事前にリサーチし、具体的な目標額(例:本体30万円+オプション10万円=計40万円)を設定します。目標額を最初に営業マンに伝えることで、交渉の基準ラインを明確にできます。
・競合車種、別会社系列店との比較
- 同メーカーの別会社系列店(例:日産プリンスと日産サティオ)や、ライバルとなる他メーカーの同クラス車種で見積もりを取り、「相見積もり」の材料にします。営業マンは他社との競争に弱いため、「〇〇社のこの車種と迷っている」「〇〇店ではこれくらいの条件が出ている」と伝えることが強力な武器になります。
- 【裏ワザ】 経営母体の異なる同じメーカーの別店舗(例:県をまたいだ隣県の店舗)を競合させるのも有効です。
● 1.2. 交渉のタイミングと「切り札」
・決算期・月末を狙う
- ディーラーは「2月・3月の年度末決算」や「8月・9月の中間決算」に向けて販売目標を達成しようと必死になります。特に、月ごとの販売台数目標も厳しいため、「月末の最終週」は値引きを引き出しやすいタイミングです。
・「今日決める」という本気度を見せる
- 商談の最終段階では、「この条件なら、今日契約します」という切り札を提示しましょう。営業マンは「即決」を強く求められており、契約書作成に必要な書類(実印、印鑑証明書、車庫証明に必要な書類など)を持参するなど、本気度を示すことで、最後の数万円の上乗せやオプションサービスを引き出しやすくなります。
・交渉の担当者を「中堅以上」に狙う
- 新人の営業マンは裁量権が少ないため、交渉に時間がかかります。中堅以上のベテラン営業マンは、経験値から上司への稟議を通すノウハウや裁量があるため、スムーズに落としどころを見つけてくれる可能性が高まります。
● 1.3. 交渉の進め方:ワントリックポーカーを避ける
・「新車値引き」と「下取り査定」を切り離す
- 最初から新車の値引き額と下取り車の査定額を同時に交渉するのは避けてください。ディーラーは両方を調整し、利益を確保しようとします。まずは「新車の値引き」に集中して限界額を引き出し、その後に「下取り価格の交渉」に移行することで、それぞれの最大化を目指します。
・オプションや付属品でのサービスを狙う
- 車両本体の値引きには限界がありますが、フロアマットやナビなどのディーラーオプション、あるいはコーティングなどのサービス品は、本体値引きとは別枠で上乗せ交渉しやすい項目です。「あと〇万円の値引きが無理なら、ドライブレコーダーをサービスしてください」などと切り替えましょう。
■■ 2. 下取り車を高く売るための極意
ディーラーの下取りは手間がかからない反面、中古車買取専門店(以下、買取店)と比較して安価になるケースがほとんどです。利益を最大化するには、買取店との「競合」が不可欠です。
● 2.1. 下取り車の「市場価値」を把握する
・相場観の獲得
- 自分の車の年式、走行距離、グレードを基に、中古車情報サイトや一括査定サイトを利用して、現在の市場価格(買取相場)を把握します。この相場観を持っているだけで、提示された査定額が妥当かどうかの判断ができ、交渉を有利に進められます。
・買取専門店での査定を必ず受ける
- ディーラーに下取りに出すかどうかに関わらず、最低でも2〜3社の買取専門店で査定を受け、最高額の見積書を手に入れます。買取専門店は、ディーラーよりも高値で買い取る仕組み(独自の販売ルートや在庫調整)があるため、ディーラー査定額より数十万円高くなることも珍しくありません。
● 2.2. ディーラーでの下取り査定交渉テクニック
・「最高額の見積書」を交渉材料にする
- 買取専門店から得た最高額の見積もり(ただし、見せるのは一番高いもの1社だけ)をディーラー営業マンに提示し、「この金額が他社で出ています。手間を省きたいので、これに近づけてもらえませんか?」と交渉します。
- 営業マンは「下取り査定額の上乗せ」という形で、新車値引きでは出せない最後のサービスを捻出する場合があります。これは、新車本体の値引きを減らして、その分を下取りに回すという「調整」が行われているためです。
・査定前の準備
- 車内は丁寧に掃除し、洗車をしておく。車がきれいだと「この人は車を大切に扱ってきた」という良い印象を査定士に与え、プラス査定につながりやすくなります。
- 付属品(スペアキー、純正オプションパーツ、取扱説明書、整備手帳)は必ず揃えて提示する。これらが欠けているとマイナス査定になることがあります。
- 社外品パーツは基本的にマイナスになることが多いので、純正品が手元にある場合は戻しておく方が無難です。
● 2.3. 売却の「出口戦略」を決める
・原則:高く売れるところに売る
- 最終的に一番高い金額を提示したところ(ディーラーか買取店)に売却するのが最善です。
・新車の納車タイミング
- 買取店は「近日中の買取」で好条件が出やすい傾向にあります。そのため、新車の納期に合わせて車を手放せるよう、事前に新車の納期を確認し、買取店には「〇月〇日が納車なので、その直前に引き渡しをしたい」と明確に伝えましょう。買取店によっては、納車までの期間の代車貸し出しや引き渡し日の調整に応じてくれる場合もあります。
■■ 総括:交渉成功のための心構え
最も重要なのは、営業マンを「敵」ではなく「味方」につけることです。
・態度は終始友好的に:
無理な要求や高圧的な態度は避け、気持ちの良い商談を心がけましょう。営業マンも人間であり、気分よく契約してもらいたい顧客には、上司に頼み込んででも好条件を提示しようとします。
・購入の意思を明確に:
「買いたい」という熱意と「この条件なら今日買う」という本気度を伝えることが、成功への最短ルートです。
この極意を実行することで、新車購入の総額を大幅に抑えることが可能になります。
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■■ 初めての交渉で使える具体的なフレーズ集とシミュレーション
初めての新車交渉で戸惑わないよう、具体的な場面ごとに使えるフレーズと、交渉の進め方をシミュレーション形式で解説します。感情的にならず、冷静かつ自信をもって商談に臨むことが重要です。
■■ 1. 準備段階:最初の接触と目標設定
商談の最初の段階で、こちらの目的と情報を整理して伝えます。
| 目的 | シミュレーションで使う具体的なフレーズ | ポイント |
|---|---|---|
| 購入意欲の伝達 | 「今日はお話を聞いた上で、具体的な購入の意思決定をしたいと思っています。」 | 冷やかしではないことを伝え、営業マンの本気度を引き出します。 |
| 目標値引き額の提示 | 「事前に相場を調べたのですが、オプション込みで総額〇〇万円の値引きを目標にしています。御社で頑張れる範囲を教えていただけますか?」 | こちらの目標を明確に伝え、交渉の基準を設定します。 |
| 下取り車の情報開示 | 「下取り車はありますが、最終的な売却先は査定額次第で決めたいので、まずは新車本体の値引き交渉からお願いできますか?」 | 新車と下取りの交渉を分離する意図を最初に伝えます。 |
■■ 2. 交渉段階:値引きの上乗せと競合の活用
営業マンが提示した初回見積もりに対して、さらなる値引きを引き出すためのフレーズです。
● 2.1. 初回見積もり提示後
| 目的 | シミュレーションで使う具体的なフレーズ | ポイント |
|---|---|---|
| 値引きへの評価 | 「初回提示でここまでご検討いただきありがとうございます。ただ、他社で見積もりを取った結果と比べると、あと一歩といったところです。」 | 感謝を示しつつ、まだ足りないことを冷静に伝えます。 |
| 具体的な上乗せ要求 | 「車両本体の値引きは、あと〇万円の上乗せは難しいでしょうか?オプションでも構いませんので、もう少し頑張っていただけると非常にありがたいです。」 | 具体的な金額を提示することで、営業マンに検討の余地を与えます。 |
| サービスへの誘導 | 「値引きがこれ以上難しいようでしたら、フロアマットやコーティングなどのサービス品でご検討いただくことは可能でしょうか?」 | 本体値引きの限界を見極め、サービス品での譲歩を促します。 |
● 2.2. 競合他社の見積もり活用
競合店の見積もりを切り札として使う際のフレーズです。
| 目的 | シミュレーションで使う具体的なフレーズ | ポイント |
|---|---|---|
| 他メーカーとの競合 | 「実は、ライバル車種の〇〇(車種名)でも見積もりを取っており、そちらの方が総支払い額で〇万円ほど安くなっています。御社の車の方が気に入っているのですが、価格差を埋めていただけると助かります。」 | 好きな車種であることを伝えつつ、他社を競争相手として利用します。 |
| 同メーカー他系列店との競合 | 「〇〇店(同メーカー別店舗)でも見積もりをもらっているのですが、最終的に契約したいので、そちらの条件を上回ることは可能でしょうか?」 | ディーラーが最も意識する「身内の競合」でプレッシャーをかけます。 |
■■ 3. 下取り交渉段階:買取店の見積もりを活用
新車の値引き交渉が落ち着いた後、下取り車の査定額を最大化するためのフレーズです。
| 目的 | シミュレーションで使う具体的なフレーズ | ポイント |
|---|---|---|
| 買取店の提示額の伝達 | 「新車の条件はこれで一旦納得しました。次に下取りの件ですが、実は買取専門店で〇〇万円の査定が出ています。」 | 買取店の最高額(またはそれに近い金額)を提示します。 |
| 下取り上乗せの要求 | 「手間を考えると、御社にお願いしたいのですが、あと〇万円上乗せしていただくことは難しいでしょうか?それなら即決できます。」 | 買取店の提示額を基準に、ディーラーでの上乗せ額を引き出します。 |
| 切り替えの伝達 | 「もし、買取店の提示額に届かないようでしたら、下取りはキャンセルして、新車購入のみで進めさせていただきたいと思います。」 | 買取専門店に売却する意思があることを明確に伝え、交渉の期限を切ります。 |
■■ 4. 最終確認と即決の切り札
全ての条件が出揃い、最終的な契約に移る段階です。
| 目的 | シミュレーションで使う具体的なフレーズ | ポイント |
|---|---|---|
| 最終条件の確認 | 「この総支払い額〇〇万円(下取り含む)、〇〇のオプションサービス、納車日〇月〇日で間違いないでしょうか?」 | 交渉で獲得した全ての条件を復唱し、書面に反映させます。 |
| 即決の意思表示 | 「ありがとうございます。その条件で間違いなければ、今日この場で契約させていただきます。書類は一式持ってきています。」 | 即決を約束することで、営業マンに「これ以上の値引きはない」と納得させ、交渉を完了させます。 |
■■ 交渉シミュレーション例
顧客:
「今日はお話を聞いた上で、具体的な購入の意思決定をしたいと思っています。事前に相場を調べたのですが、オプション込みで総額40万円の値引きを目標にしています。御社で頑張れる範囲を教えていただけますか?」
営業マン:
(初回見積もりを提示し)「本体とオプションで計25万円引き、諸費用込みの総額で〇〇万円となります。」
顧客:
「初回提示でここまでご検討いただきありがとうございます。ただ、他社で見積もりを取った結果と比べると、あと一歩といったところです。実は、ライバル車種のトヨタ・ハリアーでも見積もりを取っており、そちらの方が総支払い額で5万円ほど安くなっています。御社の車の方が気に入っているのですが、あと5万円の上乗せは難しいでしょうか?オプションサービスでも構いません。」
営業マン:
「(上司に相談後)わかりました。なんとか頑張りまして、本体値引きをあと3万円上乗せ、さらにサービスで希望されていたドライブレコーダーを無償でお付けします。これでいかがでしょうか?」
顧客:
「ありがとうございます。その条件であれば満足です。この総支払い額〇〇万円、ドライブレコーダー無償提供で間違いありませんね。この条件なら、今日この場で契約させていただきます。」
このシミュレーションのように、具体的な目標額と競合情報を提示し、感謝を伝えつつ冷静に要求を続け、最終的に即決で切り札を切ることで、交渉は有利に進みます。









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