
多くの子育て世代が子どもの将来を考えたときに、学力や体力だけでなく、生きていく上で不可欠な「お金のリテラシー」をどう育むべきかと悩むことでしょう。金融庁が公表している「金融リテラシー調査」の結果を見ても、日本人の金融リテラシーは国際的に見て高いとは言えず、家庭での金融教育の重要性が増しています。
では、高い金融リテラシーを持つ人々は、家庭でどのようにしてお金の教育を行っているのでしょうか。彼らの実践から学ぶことで、子どもたちが社会に出たときに経済的に自立し、豊かな人生を送るための土台を築くことができます。
■ お金の教育は「特別なもの」ではない
高い金融リテラシーを持つ家庭では、お金に関する話題が特別なこととして扱われることは稀です。むしろ、日常生活の一部として自然に、そして継続的に教えられています。例えば、スーパーでの買い物、光熱費の支払い、将来の夢を語る際など、あらゆる場面がお金の教育の機会となります。
親自身が「お金の話はタブー」という意識を持っていると、子どももまたお金に対してネガティブなイメージを抱きやすくなります。お金は、私たちの生活を支える大切なツールであり、その価値や使い方をオープンに話すことで、子どもは健全な金銭感覚を養うことができます。
■ 1. お小遣いを「給与」と捉え、対価と責任を教える
多くの子どもがお小遣いをもらいますが、高い金融リテラシーを持つ家庭では、このお小遣いを単なる「もらいもの」ではなく、労働の対価として位置づけることがあります。例えば、お手伝いの内容や難易度に応じてお小遣いの額を決めるなど、家庭内での「仕事」と「報酬」の関係を教えます。
これは、将来的に社会に出たときに、働くことと収入を得ることの関係を理解するための第一歩となります。また、お小遣いを定期的にもらうことで、計画的に使う練習や、自分で予算を立てる習慣が身につきます。
【具体的な実践例】:
・お手伝いリストと報酬の明確化:
「洗濯物を畳む:50円」「お風呂掃除:100円」など、具体的なお手伝いとその報酬額をリストアップし、子どもが自ら選んで実行する。
・「やりくり費」の設定:
お小遣いの一部を、文房具やちょっとしたお菓子など、子ども自身がやりくりする費用として渡すことで、予算内でやりくりする能力を養う。
・お小遣い帳の活用:
毎月のお小遣いの収支を記録するお小遣い帳をつける習慣をつけさせる。これにより、お金の流れを「見える化」し、無駄遣いを把握する力を育む。
■ 2. 「消費」「浪費」「投資」「寄付」の概念を学ぶ機会を設ける
お金の使い方には、大きく分けて「消費」「浪費」「投資」「寄付」の4つがあります。これらを理解することは、お金を賢く使う上で非常に重要です。高い金融リテラシーを持つ親は、子どもにこれらの概念を早い段階から教え、実践する機会を与えます。
・消費: 日常生活に必要なもの(食料品、衣服など)に使うお金。
・浪費: 必要性の低いものや、後悔するような使い方をするお金(衝動買いなど)。
・投資: 将来的に価値が高まる可能性のあるもの(自己投資のための習い事、将来のための貯蓄など)に使うお金。
・寄付: 困っている人や社会貢献のために使うお金。
これらの概念を教えることで、子どもは「これは本当に必要なものか?」「これは将来のために役立つか?」といった視点でお金を使うことを考えるようになります。
【具体的な実践例】:
・お店での買い物体験:
親と一緒に買い物に行き、商品の価格や品質を比較検討する機会を与える。「これは本当に必要かな?」「もっと安くて良いものはないかな?」と問いかけ、考える力を育む。
・「欲しいものリスト」の作成と優先順位付け:
子どもが欲しいものをリストアップさせ、どれから買うべきか、なぜそれを優先するのかを考えさせる。
・貯蓄箱の活用と目的意識:
「おもちゃ用」「将来の夢用」「寄付用」など、目的別に貯蓄箱を用意する。これにより、貯蓄の目的意識を持たせ、目標達成の喜びを体験させる。
・家族会議での予算決め:
家族旅行や大きな買い物をする際に、子どもも交えて予算について話し合う。これにより、限られた資源の中で優先順位をつけ、協力して目標を達成する経験をさせる。
■ 3. 失敗を恐れず、「実践」と「振り返り」を繰り返す
金融教育は、座学だけで身につくものではありません。実際に自分で考え、行動し、そしてその結果を振り返る「実践」と「振り返り」のサイクルが不可欠です。高い金融リテラシーを持つ家庭では、子どもがお金に関して失敗することを恐れず、むしろそれを学びの機会として捉えます。
例えば、お小遣いを使いすぎて必要なものが買えなくなったり、衝動買いをして後悔したりすることもあるでしょう。そうした経験を通じて、子どもは「どうすれば良かったのか」を自ら考え、次へと活かす力を養います。親は、失敗を責めるのではなく、寄り添い、共に考える姿勢が重要です。
【具体的な実践例】:
・自由な買い物体験と振り返り:
子どもに一定額のお金を持たせ、自分で自由に買い物をさせる。その後、「どうしてそれを買ったの?」「もっと良い使い方はなかったかな?」などと対話を通じて振り返りの機会を設ける。
・家族の家計簿を共有する:
大まかな収支を子どもに共有し、光熱費や食費などがどれくらいかかっているのかを「見える化」する。これにより、お金がどこから来てどこへ行くのかを理解させ、家族の一員として家計への意識を持たせる。
・シミュレーションゲームの活用:
ボードゲームやアプリなどのお金に関するシミュレーションゲームを通じて、楽しみながらお金の管理や投資について学ばせる。
■ 4. 将来設計と「投資」の視点を取り入れる
高い金融リテラシーを持つ親は、子どもに将来の夢や目標を持たせ、それを実現するためにはお金が必要であることを具体的に伝えます。そして、そのお金を「働かせる」という「投資」の概念も、子どもの発達段階に合わせて教え始めます。
例えば、貯蓄したお金を銀行に預けることで利子がつくこと、あるいは株式や投資信託がどのような仕組みで動いているのかを、身近な例を挙げて分かりやすく説明します。もちろん、リスクについてもきちんと説明し、正しい知識に基づいた判断ができるように導きます。
【具体的な実践例】:
・夢の実現に必要な費用を計算する:
「将来、宇宙飛行士になりたいなら、どのくらいお金がかかるかな?」など、子どもの夢や目標を具体化し、それにかかる費用を一緒に調べる。
・長期的な貯蓄の視点:
お年玉の一部や臨時収入を、すぐに使うのではなく、将来の大きな目標のために貯蓄するよう促す。
・簡単な金融商品について説明する:
銀行の利子、株主優待、投資信託の仕組みなど、子どもが理解できる範囲で、実際の金融商品の例を挙げながら説明する。絵本や図鑑なども活用すると良いでしょう。
・「働く」ことと「お金を稼ぐ」ことの理解:
両親の仕事内容や、なぜ働くのか、どうやってお金を稼ぐのかを話す機会を設ける。
■ 5. 親自身が学び続け、お手本を示す
最も重要なのは、親自身が金融リテラシーを高め、実践する姿を子どもに見せることです。子どもは親の背中を見て育ちます。親が計画的にお金を使い、貯蓄し、そして賢く運用している姿を見せることで、子どもも自然と健全な金銭感覚を身につけていきます。
金融に関する情報は常に変化しています。親自身が積極的に金融知識を学び、最新の情報を得る努力を続けることが、子どもにより良い金融教育を提供するための土台となります。
【具体的な実践例】:
・親が家計簿をつけている姿を見せる:
パソコンやアプリ、ノートなど、親が家計管理をしている姿を子どもに見せる。
・金融ニュースを話題にする:
新聞やテレビ、インターネットで金融に関するニュースを見聞きした際に、「これはどういうことだと思う?」と子どもに問いかけ、一緒に考える。
・家庭内の金融ルールを明確にする:
お小遣いのルール、貯蓄のルール、欲しいものを買うときのルールなど、家族で合意した金融ルールを明確にし、家族全員で守る。
■ まとめ
子どものお金のリテラシーを育むことは、一朝一夕でできるものではありません。日々の生活の中で、お金に関する対話を重ね、実践の機会を与え、そして失敗から学ぶことを許容する。これらを継続的に行うことで、子どもは自ら考え、判断し、行動できる力を身につけていきます。
高い金融リテラシーを持つ家庭の実践から学び、子どもたちが将来、経済的に自立し、豊かな人生を送るための力を育んでいきましょう。重要なのは、一方的に教え込むのではなく、子ども自身が「なぜ?」を考え、自ら学ぶ意欲を引き出すことです。家庭での金融教育は、子どもへの最高の贈り物となるでしょう。










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