
「会社に縛られず、もっと自由に生きたい」「でも、完全にリタイアするほどの資金はないし、働かなくなるのは不安」と感じている方にとって、「サイドFIRE」は魅力的な選択肢です。サイドFIREとは、生活費の一部を投資からの収入で賄い、残りを好きな仕事やパートタイムで稼ぐという、いわば「セミリタイア」の状態を指します。完全に仕事を辞めるわけではないため、フルFIREよりも少ない資金で実現でき、かつ社会とのつながりを持ちながら自分らしい生き方を追求できるのが大きなメリットです。
しかし、「いくらあればサイドFIREできるの?」という疑問は尽きないでしょう。その答えは、あなたの求める「ちょうどいい自由」と、それによって決まる生活費、そして資産運用の方針によって大きく異なります。ここでは、サイドFIREに必要な資金を明確にし、その実現に向けた具体的なステップを専門家の視点から詳しく解説していきます。
■■ サイドFIREの「いくら必要?」を紐解く3つのステップ
サイドFIREに必要な金額を算出するには、以下の3つのステップで考えていくのが効果的です。
● ステップ1:あなたの「ちょうどいい自由」を具体化する
まず、あなたがサイドFIREで実現したい「ちょうどいい自由」とは何かを明確にしましょう。これが、必要な生活費を割り出す上で最も重要なステップになります。
・どんな働き方をしたいか?
- 週に何日、何時間働くか?
- どんな仕事に就きたいか?(ストレスの少ない仕事、好きなことに関わる仕事など)
- サイドFIRE後も現在の仕事を続けるのか、あるいは別の仕事にシフトするのか?
- 月々の収入目標はいくらか?(例:月10万円、20万円など)
・どんな生活を送りたいか?
- 住居費はどうしたいか?(持ち家、賃貸、移住など)
- 食費、娯楽費、交通費、通信費などの生活費は現状とどう変わるか?
- 趣味や旅行にどのくらいお金を使いたいか?
- サイドFIREによって減らせる支出はあるか?(例:通勤費、交際費など)
- 子どもの教育費や親の介護費用など、将来かかる可能性のある大きな支出は?
これらの問いに具体的に答えることで、サイドFIRE後の月々の支出と、労働によって得たい月々の収入が明らかになります。
【具体的な例】
例えば、現在月30万円で生活している方が、サイドFIRE後は週3日程度のアルバイトで月10万円を稼ぎ、残りの月20万円を投資収入で賄いたいとします。さらに、通勤費や付き合いの飲み会が減り、食費なども見直して月々の総支出を25万円に抑えたいと目標を立てたとしましょう。この場合、投資収入で補いたい金額は、目標とする月々の総支出25万円から、労働で稼ぐ月10万円を差し引いた15万円となります。
● ステップ2:年間支出から必要資産額を算出する
ステップ1で算出した「投資収入で賄いたい月々の金額」を元に、サイドFIREに必要な資産額を計算します。ここで重要なのが、「4%ルール」という考え方です。
◇ 4%ルールとは?
4%ルールとは、年間支出の25倍の資産があれば、毎年その4%を取り崩しても資産が目減りする可能性が低いという、アメリカのトリニティ大学の研究で示された理論です。このルールは、FIREを目指す上で広く活用されています。もちろん、未来を完全に保証するものではありませんが、一つの目安として非常に有用です。
この4%ルールをサイドFIREに当てはめてみましょう。
年間支出(投資収入で賄う部分) ÷ 0.04(4%) = 必要資産額
あるいは、
年間支出(投資収入で賄う部分) × 25 = 必要資産額
ステップ1の例で考えてみましょう。
投資収入で賄いたい月々の金額が15万円の場合、年間の支出は15万円 × 12ヶ月 = 180万円です。
・180万円 ÷ 0.04 = 4,500万円
・180万円 × 25 = 4,500万円
この場合、約4,500万円の資産があれば、年間180万円の投資収入を得られる可能性が高まります。これが、サイドFIREを実現するための目安となる資金額です。
◇ 4%ルールの注意点
4%ルールは非常に便利な目安ですが、以下の点に注意が必要です。
・インフレのリスク:
4%ルールは、ある程度のインフレを考慮していますが、大幅なインフレが起こると実質的な購買力が低下する可能性があります。
・市場の変動:
株式市場は常に変動します。不況時には一時的に資産が減少する可能性もあります。そのため、急な取り崩しが必要ないよう、ある程度の現金も手元に置いておくことが賢明です。
・各国の経済状況:
4%ルールはアメリカの市場データを元にしているため、日本の経済状況や税制とは異なる部分もあります。あくまで目安として捉え、柔軟な計画が必要です。
● ステップ3:資金計画とロードマップを作成する
必要資産額が明確になったら、それをどのように貯め、運用していくかの具体的な計画を立てます。
◇ 1. 現状把握と目標設定
・現在の貯蓄額・資産額: まずは現状を把握しましょう。
・サイドFIRE目標時期: いつまでにサイドFIREを実現したいですか?
・毎月の貯蓄可能額: 現在の収入と支出から、毎月いくら貯蓄に回せるかを算出します。
◇ 2. 資産運用の戦略
サイドFIREの達成には、貯蓄だけでなく資産運用(投資)が不可欠です。銀行預金だけでは、インフレに負けて資産が目減りする可能性が高く、目標達成までに膨大な時間がかかってしまいます。
・投資対象の選定:
- 低コストのインデックスファンド: 特定の市場全体に投資するインデックスファンドは、少額から始められ、リスク分散もされており、初心者にもおすすめです。S&P500や全世界株式(VT、ACWIなど)に連動する投資信託やETFが代表的です。
- 高配当株・ETF: 定期的に配当金が得られる銘柄やETFも、サイドFIRE後の安定収入源として検討する価値があります。ただし、個別株はリスクが高いので、複数の銘柄に分散投資できるETFから始めるのが良いでしょう。
- 不動産投資: ある程度のまとまった資金が必要ですが、家賃収入という形で安定した不労所得を得られる可能性があります。
・積立投資の活用:
- NISA(新NISA)やつみたてNISA、iDeCo(イデコ)などの税制優遇制度を最大限に活用しましょう。これらの制度を利用することで、運用益が非課税になったり、所得控除を受けられたりするため、効率的に資産形成を進めることができます。
- ドルコスト平均法: 毎月決まった額を定期的に投資することで、価格が高い時には少なく、安い時には多く購入することになり、結果的に購入単価を平準化する効果があります。
◇ 3. ロードマップの作成
目標達成までの具体的な道のりを可視化します。
・貯蓄目標と時期:
毎月いくら貯蓄し、いつまでにいくら貯めるかを具体的に設定します。
・運用目標とリバランス:
年間利回り目標を設定し、定期的に資産配分の見直し(リバランス)を行いましょう。例えば、目標利回りを年率5%と設定し、それを達成するためにどのようなポートフォリオを組むか検討します。
・支出の見直しと最適化:
無駄な支出がないか定期的にチェックし、削減できる部分があれば積極的に見直します。サブスクリプションサービスの見直しや、固定費(通信費、保険料など)の削減は効果的です。
・収入アップの検討:
副業やスキルアップによる昇給など、収入を増やすこともサイドFIREを早める有効な手段です。
■■ サイドFIREを実現するための具体的なシミュレーション例
ここでは、いくつかのケースを想定して、具体的な必要資金額をシミュレーションしてみましょう。
【ケース1】:月5万円を投資収入で賄う場合
・年間必要投資収入:5万円 × 12ヶ月 = 60万円
・必要資産額(4%ルール):60万円 ÷ 0.04 = 1,500万円
【ケース2】:月10万円を投資収入で賄う場合
・年間必要投資収入:10万円 × 12ヶ月 = 120万円
・必要資産額(4%ルール):120万円 ÷ 0.04 = 3,000万円
【ケース3】:月20万円を投資収入で賄う場合
・年間必要投資収入:20万円 × 12ヶ月 = 240万円
・必要資産額(4%ルール):240万円 ÷ 0.04 = 6,000万円
このように、「投資収入でどのくらい生活費を賄いたいか」によって、必要な資金額は大きく変わります。まずは、自分が「ちょうどいい自由」を得るために必要な金額を具体的に計算してみることが重要です。
■■ サイドFIRE成功のための心構えと注意点
サイドFIREは、単なる節約や投資の技術だけでなく、長期的な視点と柔軟な心構えが成功の鍵を握ります。
● 1. 長期的な視点を持つ
資産形成は一朝一夕で成し遂げられるものではありません。数年、あるいは10年以上の長いスパンで計画を立て、着実に実行していく忍耐力が必要です。市場の短期的な変動に一喜一憂せず、淡々と積立投資を続けることが大切です。
● 2. 柔軟な計画を立てる
人生は何が起こるかわかりません。予期せぬ出費や収入の変化、健康上の問題などが発生する可能性もあります。そのため、一度立てた計画に固執しすぎず、状況の変化に応じて柔軟に見直しを行うことが重要です。サイドFIRE後の労働収入も、状況に合わせて増減できるような仕事を選ぶと、より安定したサイドFIREライフを送れるでしょう。
● 3. リスク管理を怠らない
投資にはリスクがつきものです。無理なハイリスク・ハイリターンな投資に手を出すのではなく、自身のリスク許容度を理解し、分散投資を徹底するなど、堅実なリスク管理を心がけましょう。また、万が一の病気や災害に備えて、適切な保険に加入したり、緊急資金として生活費の数ヶ月分を現金で確保しておくことも重要です。
● 4. 学び続ける姿勢を持つ
経済状況や投資のトレンドは常に変化しています。ファイナンシャルプランニングや投資に関する知識を継続的に学び、自身の知識をアップデートしていくことで、より最適な判断を下せるようになります。
● 5. 幸福度を追求する
サイドFIREの目的は、お金を貯めること自体ではありません。「ちょうどいい自由」を得て、より充実した人生を送ることです。そのため、節約や投資にばかり意識が向きすぎず、自分の幸福度を高めるためのバランスを意識しましょう。無理な節約でストレスを溜めたり、大切な人との時間を犠牲にしたりしては本末転倒です。
■■ まとめ:あなたの「ちょうどいい自由」がサイドFIREの鍵
「ちょうどいい自由」が得られるサイドFIREを実現するために必要な金額は、あなたのライフスタイルや価値観によって大きく異なります。しかし、本記事で解説した以下のステップを踏むことで、その具体的な金額を割り出し、実現に向けた明確なロードマップを描くことができます。
- あなたの「ちょうどいい自由」を具体化し、サイドFIRE後の月々の支出と労働収入目標を明確にする。
- 投資収入で賄いたい年間の支出額を算出し、4%ルールを用いて必要資産額を割り出す。
- 現在の資産状況、目標時期、毎月の貯蓄可能額を考慮し、積立投資や税制優遇制度を活用した具体的な資金計画を立てる。
サイドFIREは、あなたの人生をより豊かにする可能性を秘めた素晴らしい選択肢です。焦らず、しかし着実に計画を実行し、自分らしい「ちょうどいい自由」を手に入れてください。この解説が、あなたのサイドFIRE実現の一助となれば幸いです。









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