相続放棄は一部だけ可能?悩ましい不動産相続の判断と処理の仕方

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不動産相続において「いらない不動産だけを相続放棄したい」と考える方は少なくありません。しかし、結論から申し上げると、特定のある不動産だけを相続放棄することは原則としてできません。 相続放棄は、被相続人の残したプラスの財産(預貯金、不動産、有価証券など)もマイナスの財産(借金、未払金など)も、全ての財産に対してまとめて放棄する制度だからです。

では、なぜ「いらない不動産だけを放棄したい」というニーズが生まれるのでしょうか。そして、それができないとすれば、どのように対処すれば良いのでしょうか。本稿では、不動産相続放棄の基本的な考え方から、判断ポイント、そして特定の不動産を「手放す」ための具体的な対処法について、専門家の視点から詳しく解説します。

■■ 1. 相続放棄の基本原則:包括承認・包括放棄

民法が定める相続の原則は、「包括承認」または「包括放棄」です。

・包括承認(単純承認):
被相続人の財産を全て引き継ぐことです。プラスの財産もマイナスの財産も全てを承継します。特に手続きをしない場合、相続開始から3ヶ月が経過すると自動的に単純承認したとみなされます。

・包括放棄(相続放棄):
被相続人の財産を全て放棄することです。プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないことになります。これにより、初めから相続人ではなかったものとみなされます。相続放棄をするためには、原則として相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。

この原則からもわかるように、「預貯金は欲しいけれど、負債が多い不動産はいらない」といった、財産の良い部分だけを受け取り、悪い部分だけを放棄するという都合の良い選択はできないのです。

■■ 2. なぜ「いらない不動産だけを放棄したい」のか?

特定の不動産だけを放棄したいと考える背景には、以下のような理由が考えられます。

・維持管理の手間と費用:
空き家や老朽化した不動産は、固定資産税、都市計画税などの税金に加え、修繕費用、管理費用、解体費用などがかかります。遠隔地にある場合、現地への移動費なども負担になります。

・負の遺産:
相続した不動産に多額の抵当権が設定されている、あるいは建物の修繕が必要で多額の費用がかかるなど、資産価値よりも負債や維持費用が上回る「負の遺産」となるケースです。

・活用予定がない:
相続した不動産を自身で利用する予定がなく、売却しようにも買い手が見つかりにくい、あるいは市場価値が低いといった場合。

・他の相続人との共有:
複数人で相続した場合、共有名義の不動産となることで、意見の相違から活用や売却が進まないなどの問題が生じることがあります。

これらの問題から解放されたいという気持ちは理解できますが、現在の法律では「いらない不動産だけを放棄する」という選択肢は用意されていません。

■■ 3. 相続放棄の判断ポイント:全財産を考慮する

では、相続放棄をするかどうかの判断はどのようにすれば良いのでしょうか。ポイントは、被相続人の「全財産」を総合的に評価することです。

・プラスの財産とマイナスの財産の全体像を把握する:
 ※プラスの財産: 預貯金、有価証券、不動産(土地、建物)、自動車、貴金属、骨董品など。
 ※マイナスの財産: 借金(住宅ローン、カードローンなど)、未払いの税金、医療費、家賃、保証債務など。

・相続財産調査の徹底:
預貯金口座、不動産の登記情報、借入先の確認など、可能な限り詳細な財産調査を行うことが不可欠です。被相続人の金融機関からの借入れがないか、連帯保証人になっていないかなども確認しましょう。

・相続開始を知った時からの3ヶ月:
相続放棄の申述期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内です。この期間内に、上記の財産調査と放棄の判断をしなければなりません。もし調査に時間がかかる場合は、家庭裁判所に「相続放棄のための期間伸長」を申し立てることも可能です。

・次の順位の相続人への影響:
相続放棄をすると、次の順位の相続人(例:配偶者と子が放棄すれば、親や兄弟姉妹が相続人になる)に相続権が移ります。この点も考慮し、関係者間でよく話し合うことが重要です。

もし、マイナスの財産がプラスの財産を明らかに上回る、あるいは不要な不動産以外のプラスの財産がほとんどなく、維持費や税金などの負担が大きすぎる場合は、相続放棄も有効な選択肢となります。ただし、相続放棄をすると、被相続人の財産は一切受け取れません。思い出の品や、価値のある動産なども手元に残すことはできませんので、その点を十分に理解しておく必要があります。

■■ 4. いらない不動産を「手放す」ための対処法

相続放棄が特定の不動産のみには適用できないとしても、「いらない不動産」を「手放す」ための方法はいくつか存在します。これらの方法は、相続放棄とは異なり、被相続人の他のプラスの財産は相続することができます。

◆ 4.1. 遺産分割協議で特定の相続人が取得し、その後売却・処分する

最も一般的な解決策の一つです。

・遺産分割協議:
複数の相続人がいる場合、遺産分割協議を行い、不要な不動産を特定の相続人(例えば、その不動産の活用を考えている相続人、あるいは「いずれは処分する」という前提で他の相続人よりも多くの他の財産を受け取る相続人など)が単独で相続する形にします。

・売却:
取得した相続人が、不動産仲介業者を通じて市場で売却します。これにより、維持管理の負担から解放され、売却代金を得ることができます。売却益が出た場合は、譲渡所得税がかかります。

・贈与・寄付:
売却が難しい場合、第三者への贈与や、自治体への寄付を検討することもあります。ただし、自治体への寄付は、建物の状態や管理コストなどを理由に受け入れてもらえないケースも多いです。個人への贈与の場合、贈与税が発生する可能性があります。

・相続土地国庫帰属制度の利用:
2023年4月27日から施行された新しい制度です。相続または遺贈により土地を取得した相続人が、一定の要件を満たす場合に、土地を国に帰属させることができる制度です。管理が困難な土地や、利用予定のない土地を国に引き取ってもらうことで、土地の所有権を手放すことができます。

 ※要件:
 建物がないこと、担保権が設定されていないこと、土壌汚染がないこと、土地の境界が明らかであること、管理に過大な費用・労力がかからないことなど、厳しい要件が定められています。

 ※負担金:
 土地の管理費用として、10年分の管理費用相当額の負担金を国に納める必要があります。

 ※注意点:
 全ての土地が引き取られるわけではなく、審査に通る必要があります。

◆ 4.2. 相続人全員で共有し、共同で処分する

相続人全員で共有名義にし、全員の合意のもとで売却を進める方法です。

・共有状態: 相続登記を共有名義で行います。

・共同売却: 売却には共有者全員の同意が必要です。これがネックとなる場合も多く、意見の相違から売却が進まないケースも散見されます。

・売却代金の分配: 売却代金は共有持分に応じて分配されます。

・問題点: 共有状態が長引くと、共有者の死亡によりさらに相続人が増え、権利関係が複雑化するリスクがあります。

◆ 4.3. 限定承認を選択する(特定の不動産「のみ」には適用不可だが、負債超過の対策として)

限定承認は、「相続によって得たプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を弁済し、残ったプラスの財産があればそれを相続する」という制度です。

・目的:
債務超過の可能性があるものの、どうしても残したい財産がある場合に選択されます。

・手続き:
相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述し、相続人全員で申し立てる必要があります。

・注意点:
財産目録の作成や、相続財産管理人による換価・清算手続きなど、非常に煩雑な手続きを要します。また、「特定の不動産だけを放棄」することはできません。あくまで「プラスの範囲内でマイナスを弁済する」という包括的な制度です。いらない不動産の処分を直接の目的とする制度ではないため、注意が必要です。

■■ 5. 専門家への相談の重要性

不動産相続は、個々のケースによって状況が大きく異なります。財産の状況、相続人の人数、関係性、それぞれの意向など、様々な要素が絡み合い、複雑な問題となりがちです。

・弁護士:
相続放棄、遺産分割協議の交渉、限定承認など、法律的な手続き全般について相談できます。特に、相続人間での紛争がある場合や、相続放棄・限定承認を検討している場合には不可欠です。

・司法書士:
不動産の相続登記、遺産分割協議書の作成など、手続きに関する専門家です。

・税理士:
相続税の申告、節税対策、不動産売却時の税金など、税金に関する専門家です。

・不動産会社:
相続した不動産の査定、売却活動、活用に関するアドバイスなど、不動産の専門家です。

これらの専門家が連携することで、多角的な視点から最適な解決策を導き出すことができます。不要な不動産でお悩みの場合でも、安易に自己判断せず、まずは専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。早めの相談が、問題の長期化や複雑化を防ぐ鍵となります。

■■ 6. まとめ

「いらない不動産だけを相続放棄する」ことは、現在の法律では原則としてできません。相続放棄は、被相続人の全ての財産を放棄する包括的な制度だからです。

しかし、「いらない不動産」を「手放す」ための方法は複数存在します。遺産分割協議を通じて特定の相続人が取得し売却する、相続人全員で共有し共同で処分する、そして新しく始まった「相続土地国庫帰属制度」の利用も選択肢の一つとなります。

最も重要なのは、被相続人の財産状況を正確に把握し、相続人全員で十分に話し合い、それぞれの状況や意向を考慮した上で、最適な方法を選択することです。そして、相続は期間が定められている手続きも多いため、できるだけ早めに専門家(弁護士、司法書士、税理士、不動産会社など)に相談し、適切なアドバイスを受けることが、後悔のない相続を実現するための鍵となります。

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