
投資や貯蓄の話になると、必ずと言っていいほど登場する「複利」という言葉。
かの有名な物理学者アルベルト・アインシュタインが「人類最大の発明」と呼んだとも言われるこの力は、私たちの資産形成において、まさに魔法のような効果を発揮します。
しかし、その本当の意味や、もう一方の「単利」との違いを構造的に理解している人は意外と少ないかもしれません。
「利息にさらに利息がつくこと」と単純に覚えていても、その本質的なパワフルさは見えてきません。
なぜ複利はそれほどまでに重要視されるのか?単利とは何が、そしてどのように違うのか?
この記事では、投資初心者がつまずきやすい「複利」と「単利」の概念を、その構造から丁寧に解きほぐし、具体的な計算例や図を交えながら、誰にでも分かりやすく解説していきます。
この機会に複利の力を正しく理解し、将来の資産形成に役立てましょう。
■■ 第1章: 金利の基本的な2つの考え方「単利」と「複利」
まず、金利の計算方法には大きく分けて「単利」と「複利」の2種類が存在することを理解しましょう。
この2つの違いは、利息を計算する際の元本(元手となるお金)の扱いの違いにあります。
● 1-1. 単利とは?常に元本は一定のシンプルな構造
単利は、非常にシンプルな金利の計算方法です。その構造は、最初に預け入れた元本に対してのみ、利息が計算されるというものです。
例えば、100万円を年利5%の単利で預金したとしましょう。
・1年後:
100万円 × 5% = 5万円の利息が付きます。合計は105万円です。
・2年後:
利息の計算対象となる元本は、当初の100万円のままです。したがって、2年目も100万円 × 5% = 5万円の利息が付きます。合計は110万円です。
・3年後:
同様に、3年目も100万円 × 5% = 5万円の利息が付き、合計は115万円となります。
このように、単利では毎年受け取る利息の額は常に一定です。
資産の増え方は、毎年同じ金額が積み上がっていく直線的なイメージ、つまり一次関数的な増加となります。
【単利の計算式】:
将来の資産額 = 元本 × (1 + 利率 × 年数)`
● 1-2. 複利とは?利息が元本に組み込まれる「雪だるま式」の構造
一方、複利は、単利よりも少し複雑ですが、その分パワフルな仕組みです。複利の構造は、一定期間ごとに支払われる利息を元本に加え、その新しい元本に対して次の利息が計算されるというものです。
先ほどと同じく、100万円を年利5%の複利で預金したケースを見てみましょう。
・1年後:
100万円 × 5% = 5万円の利息が付きます。合計は105万円です。(ここまでは単利と同じ)
・2年後:
ここからが違います。2年目の利息計算の元本は、当初の100万円ではなく、1年後の合計額である105万円になります。
したがって、105万円 × 5% = 5万2,500円の利息が付きます。合計は110万2,500円です。
・3年後:
3年目の元本は、2年後の合計額である110万2,500円です。
110万2,500円 × 5% = 5万5,125円の利息が付き、合計は115万7,625円となります。
お気付きの通り、複利では毎年受け取る利息の額が少しずつ増えていきます。
これは、「利息が利息を生む」という現象が起きているためです。
時間が経てば経つほど、その増加ペースは加速していきます。
まるで、雪の玉を転がすと、周りの雪を巻き込んでどんどん大きくなっていく様子に似ていることから、「雪だるま式に増える」と表現されます。この増加の仕方は、二次関数的な曲線を描きます。
【複利の計算式】:
将来の資産額 = 元本 × (1 + 利率) ^ 年数`(^はべき乗を示す)
■■ 第2章: 単利と複利の差はどこから生まれるのか?構造的な比較
単利と複利の最大の違いは、利息を再投資するかどうかにあります。
この構造的な違いが、時間の経過とともに驚くべき差を生み出します。
● 2-1. 具体例で見る資産の増え方の違い
100万円を年利5%で30年間運用した場合、単利と複利でどれだけの差が生まれるかを比較してみましょう。
| 経過年数 | 単利での資産額 | 複利での資産額 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 1年後 | 105万円 | 105万円 | 0円 |
| 5年後 | 125万円 | 127万6,282円 | 2万6,282円 |
| 10年後 | 150万円 | 162万8,895円 | 12万8,895円 |
| 20年後 | 200万円 | 265万3,298円 | 65万3,298円 |
| 30年後 | 250万円 | 432万1,942円 | 182万1,942円 |
最初はわずかな差ですが、時間が経つにつれてその差はどんどん開いていくことが一目瞭然です。
30年後には、元本の2倍近い差が生まれています。
これが「時間を味方につける」ことの重要性であり、複利効果の真髄です。
● 2-2. 構造を図で理解する
この違いを構造的に図で示すと、以下のようになります。
【単利の構造】
・元本(常に一定) → 利息
・元本(常に一定) → 利息
・元本(常に一定) → 利息
【複利の構造】
・元本 → 利息①
・(元本+利息①) → 利息②
・(元本+利息①+利息②) → 利息③
単利は常にスタート地点である「元本」から利息が生まれる一方、複利は「利息を含んだ前回のゴール」が次のスタート地点となり、そこから新たな利息を生み出すのです。
このプロセスの繰り返しが、爆発的な成長を生み出す原動力となります。
■■ 第3章: 複利効果を最大化する3つの要素
複利の効果は、以下の3つの要素によって大きく左右されます。
- 利率(リターン)
- 期間
- 元本
● 3-1. 利率の力:高いほど雪だるまは早く大きくなる
当然ながら、利率が高ければ高いほど、資産の増えるスピードは速くなります。
先ほどの例で、年利が3%の場合と7%の場合を比較すると、その差は歴然です。
ただし、一般的にリターンが高い金融商品はリスクも高くなる傾向があるため、自身のリスク許容度に合った利率を目指すことが重要です。
● 3-2. 時間の力:複利効果の最も重要なパートナー
複利効果を最大限に引き出す上で、最も重要な要素が「時間」です。先ほどの30年間のシミュレーションで見たように、運用期間が長ければ長いほど、複利効果は加速度的に増大します。
若いうちから少額でも積立投資を始めることが推奨されるのは、この「時間」という強力な味方を最大限に活用するためです。
始めるのが1年違うだけで、将来の資産額に大きな差が生まれる可能性があります。
● 3-3. 元本の力:雪だるまの芯の大きさ
もちろん、元本が大きいほど、生み出される利息の絶対額も大きくなります。
しかし、複利の恩恵は、まとまった資金がないと受けられないわけではありません。
毎月コツコツと積み立てていく「積立投資」でも、その都度元本が増えていくため、十分に複利効果を享受することができます。
■■ 第4章: 複利を体感する「72の法則」
複利の力を直感的に理解するのに役立つ、便利な法則があります。それが「72の法則」です。
これは、資産が複利で2倍になるまでのおおよその年数を簡単に計算できる法則です。
【計算式】:
72 ÷ 金利(%) ≒ 資産が2倍になる年数`
例えば、年利3%で運用した場合、資産が2倍になるのは「72 ÷ 3 = 24年」後ということになります。
年利6%であれば「72 ÷ 6 = 12年」です。
この法則を知っていると、「目標金額を達成するためには、どれくらいの利率で、どのくらいの期間運用する必要があるか」といったシミュレーションが簡単に行えるようになり、資産計画を立てる上で非常に役立ちます。
■■ まとめ:なぜ今、複利の理解が重要なのか?
「複利効果」とは、単に利息が利息を生むという計算上の話だけではありません。
それは、時間をかけることで、小さな元手からでも着実に資産を育てていくことができるという、資産形成における根本的な原理を示しています。
・単利は、元本のみに利息がつく直線的(一次関数的)な成長。
・複利は、元本と利息の合計に利息がつく加速度的(二次関数的)な成長。
この構造的な違いを理解することが、長期的な視点での資産形成の第一歩となります。
低金利時代が続き、将来への備えがますます重要になる現代において、複利の力を理解し、それを活用できるかどうかは、私たちの経済的な未来を大きく左右すると言っても過言ではありません。
投資はギャンブルではなく、時間をかけて資産を育てる行為です。
その最も力強い武器となる「複利」の概念をしっかりと理解し、賢い資産形成をスタートさせましょう。










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